住栄ジャーナル

JUEI JOURNAL

  • 2023.02.20

「生産緑地の2022年問題」という言葉をお聞きになったことはありますか。

大都市近郊に農地をお持ちの方以外には、聞いたことがないという方も多いと思います。
聞いたことがある方でも、よく分からないけど大変なことが起こるらしいと、漠然とした
イメージを持っているだけの方がほとんどではないでしょうか。

 

しかし、首都圏などの大都市近郊に農地をお持ちの方にとってこの「2022年問題」は、
その農地をどのように活かして保っていくかを決定する上で、大きな影響力を持つ問題です。

 

ここでは、「生産緑地の2022年問題」といわれていることについて、その意味と背景、政府
などによる政策面での対応、それらに関して生産緑地の所有者が知っておかなければならない
ことを詳しくご説明するとともに、これから計画を立てて実行しなければならない対策などに
ついてもご案内します。

 

今後どのように生産緑地を活かして、その所有者である農家の将来の生活設計を立てていくかを
考える際のお役に立てるかと思います。

 

 

1.生産緑地とは?
生産緑地とは1992年の改正生産緑地法により指定された市街化区域内の農地として保全する
ことを主目的とした土地のことであり、一定の条件を満たす土地に相続税の納税猶予や固定資産税
などの税制優遇を受けられる代わりに30年間の営農義務が課せられるというものです。

 

一定の条件とは、
「農林漁業の生産活動ができるか(日当たりなどが適しているか)」や、
「病院や公園、緑地などの公共施設やその他公益性の高い施設の敷地を供する土地として適しているか」
「面積が500㎡以上であること」
「当該農地の所有者とその他の権利者全員が同意していること」
などです。

 

生産緑地に指定された土地は30年間売却や転用はできませんが、生産緑地として指定された日から30年
経つと市区町村に時価で買い取りの申し込みができます。
また宅地化農地は市街化区域内の宅地化を目的とした農地のことであり、生産緑地と違って営農義務が
ない代わりに宅地並みの税金が課せられます。

 

 

2.生産緑地の2022年問題とは?
生産緑地は営農義務を課せる代わりに30年間の相続税の納税猶予や固定資産税の税制優遇を与えられて
いましたが、30年間を過ぎると優遇処置は受けられなくなる代わりに、市区町村に買取を申し込むこと
が可能になります。
しかし、実際は市区町村が買い取る可能性は低いとされており、買取されなかった土地は売却できる
ようになります。
そのため、1992年に指定された生産緑地のほとんどは2022年でタイムリミットを迎え、生産緑地が市場
に大量に売りに出されることで、地価の暴落や都市部の宅地化が進むことにより緑地が減少するなど
多くの問題が懸念されています。これが「生産緑地の2022年問題」と言われています。

 

 

3.2018年施行の「特定生産緑地制度」とは?
生産緑地の30年間の営農義務が解除されるのは全体の約80%であるとされていますが、果たして一気に売り
に出されるのでしょうか?
実はそれを防ぐために2018年に生産緑地法が改正されました。改正された法の中で新たに「特定生産緑地」
の指定が受けられるようになり、更に10年間の税制優遇受けられることとなりました。
また、これまで生産緑地の必須条件として農地の面積は500㎡必要でしたが、都市部にしては広すぎること
から300㎡に変更となり、更にこれまで生産緑地内には何も建設できなったルールが緩和され、第三者に
農地を貸し出すことや、収益を得られるレストランや施設も併設すること、獲れた作物を製造・販売・加工
することが可能になりました。

 

 

4.関連する税法などの整備
平成29年の生産緑地法改正は、都市農地に対する政策の転換を受けて、特定生産緑地という新たな制度を
設けるものであったため、多くの関連する法制度の整備などが必要になりました。

 

① 贈与税・相続税の納税猶予を特定生産緑地にも認める改正
従来の生産緑地に対して認められていた贈与税・相続税の納税猶予および免除の特例を、
特定生産緑地に対しても適用するための改正が行われました。

 

②固定資産税の軽減を特定生産緑地にも認める改正
従来の生産緑地に対して認められていた固定資産税の農地評価・農地課税を、特定生産
緑地に対しても適用するための改正が行われました。

 

③ 生産緑地の貸付けを容易にする新法の制定
都市農地の貸借の円滑化に関する法律の制定によって、一定の基準を満たした生産緑地
の貸借取引に対しては、農地法の規制を適用しないこととすることで、生産緑地の貸付
けが容易にできることになりました。

 

 

5.生産緑地所有者のとるべき3つの選択肢
生産緑地2022年問題に対する行政としての制度面での対策はひととおりなされています。
そして、これによって急激な変動や混乱はある程度緩和できるものと期待されます。
ただし、これらはあくまで問題の先送り策に過ぎないとも言えます。
生産緑地を活かして保全していくためには、その所有者である農家がどのような選択を
行うかが重要になってきます。
生産緑地法改正を受けて生産緑地の所有者がとるべき対応として、次の3つの選択肢が
考えられます。

 

① 買取り申出を行う
買取り申出を行っても市町村による買取りなどがされなかった場合には、生産緑地法の
制限が解除され、農地の開発・売却が可能になります。
この選択肢を取った場合は、固定資産税・相続税等の優遇措置が終了して税負担が増加
することになりますが、それを負担するのに十分な収入を、必要とする時期に、今後の
開発または売却などで得られるかどうかが重要なポイントになります。

 

② 特定生産緑地の指定を受ける
特定生産緑地の指定を受ければ、固定資産税・相続税等の優遇措置は引き続き適用を
受けられますが、他方で生産緑地法による行為制限などの義務も、相続開始などの
場合を除き、今後10年間負い続けることになります。
このケースでは、自分自身や家族、後継者の意欲や能力その他の状況を考えた場合、
農業経営を今後10年間続けることができるかどうかを、慎重に検討したうえで判断
する必要があります。

 

③ 特定生産緑地の指定を受けずに現状の生産緑地のままにしておく
特定生産緑地の指定を受けず、現状の生産緑地のままとした場合には、当初の生産緑地
指定から30年を経過した後はいつでも買取りの申出ができることになります。
そして税の面では、現在適用を受けている相続税等の納税猶予はそのまま継続されますが、
次代への相続時には納税猶予が適用できません。また固定資産税については、激変緩和の
経過措置が設けられてはいますが、5年後は宅地並み課税となり税負担が増えます。
またこのケースでは、買取り申出を行わない限り生産緑地法による制限を受ける点、
および30年経過後は特定生産緑地の指定を受けられなくなるという点にも注意が必要です。

 

 

5.まとめ
この記事では「生産緑地の2022年問題」と呼ばれる問題について、生産緑地の指定解除が
環境や不動産市場へ悪い影響を与えるおそれがあると考えられていたことや、その背景
としては生産緑地制度の仕組みや市町村の財政事情があることなどをご説明しました。

 

次に この問題に対する行政側の対策として、生産緑地法や関連する税法等の改正など
によって、生産緑地制度の延長と拡充が図られたことについてもご説明しています。

 

そして生産緑地制度の改正に関連して所有者である農家がとるべき選択肢と、
各ケースにおける法の規制や税務上の優遇措置の相違、どの選択肢をとるかを決める
にあたっての注意点についてもご説明しました。

 

生産緑地の所有者の方が、その保全・活用方法を決める際には、この記事の説明だけでは
メリット・デメリットなど判断が難しい部分があると思います。
生産緑地の所有者にとって最適の選択をする為のご相談などを当社では経験豊富なスタッフが
親身に対応させていただきます。お気軽にお問い合わせくださいませ。